消滅TSスポット:新宿歌舞伎町コイパ

 新宿歌舞伎町の消滅したコインパーキングで過去に見た賑わいをちょっとだけ紹介したい。位置は新宿靖国通り沿い、雑居ビルの建て替えに伴う調整か何かで、一時的に数年間存在していたコインパーキングであった。その敷地内には、自販機一台とコインロッカーもあり、たとえ駐車場に車が止まっていなくても、立ちションができる死角がいくつもあるような珍しい構造になっていた。

 夜は歌舞伎町で活躍する方々の休憩スポットになっていて、駐車場なのに車と関係のない人がいない瞬間を見ることの方が少ないくらいの場所であった。働くお店指定の制服姿でタバコを吸う者、缶コーヒーをすする者、立ちションする者たちが、雑居ビルに挟まれ異様に広がる駐車場という名の空間に集合していたようである。

 立ちションするメンツは察しのとおりであり、キャッチの若いニーチャンが高頻度で訪れる。彼らはそこでは一切隠れようとしない者が多かった。両サイドが道路に面しているため、スポットが1箇所だけになるわけではなく、特にスポットとなりやすい場所としては、隣接の雑居ビルの壁、もしくは自販機の傍、精算機の裏などであったが、いずれもすっぽり全身を隠せるわけではなく、要は陰部とションベンがかろうじて見えない程度である。だから、そこを常用する若いニーチャンらは、もはや隠さないで、ささっと雑居ビルの壁めがけて立ちションをしていた。彼らは、別に我慢の限界でやっているわけでもないし、ビールを飲みまくっているわけでもないから、立ちションしてションベンが出し終わるのが比較的早い。さっとチ●コを出したら羞恥心も感じないたくましいメンタルゆえ、一瞬でションベンを放出する。感覚で言えば、立ちションのために壁を向いた瞬間から、ピチャピチャと音が聞こえてくる印象すらあった。

 ほかにも、22時台となれば歌舞伎町で遊んだリーマンが移動をはじめる。そのタイミングになると駐車場がキャッチ以外の全カテゴリーに属する男たちの立ちションスポットに変化する。スーツリーマンだけでなく、私服の大人たちの立ちションが多いのも、このスポットの特徴であったと思う。彼らは、たぶんこの立ちションスポットは単発の利用となるため、自身がよしと思った上述の死角を選び、オシッコしてるところがバレないよう工夫しているようだった。

 このスポットがいつまで存在していたのかは定かではないが、記憶の限り2018年頃まではあったと思う。現在は、雑居ビルが建っていて、かつてここに空間があったことなど信じられない状態になっている。ただ、立ちションスポットが消滅してしまっても、その繁華街を訪れる男たちのションベン事情は変化しない。絶対どこか、別の都合のいいところを見つけて、立ちションをしているはずなのである。

 ふとこんなことを考えた。歌舞伎町で遊んだ私服のちょい悪ダンディー中年が、このスポットがまだ存在していた時代に、ここで一度立ちションをしていたとしよう。今現在にその男が友人らと歌舞伎町を再訪し、その昔の記憶だけを頼りに「そういえば立ちションできるとがこの辺にあったぜ」なんて、新宿駅に向かう帰りの途中に膀胱パンパンの状態で立ち寄ったら、どうなるのだろうかと。スポットが消滅していても、もうすぐ立ちションできると気持ちを緩めてしまったら、もうどうしようもないはずである。

ストリートビューには駐車場が潰され建築工事が始まる間際の様子が収められていた。(出典:Google Mapsのスクショ)