革靴に飛沫を1つ2つと

 電気を付けっぱなしのまま夜の変な時間にうっかり寝てしまい、これまた深夜の変な時間に起きてしまった。金曜の深夜1時前だったと思う。寝ていなかったら食料品なんかを買いにスーパーに行こうと思っていたので、こんな時間だけど24時間スーパーへ行くことにした。その途中、いろいろと考えるきっかけとなる立ちションを目撃してしまったのである。やはり深夜帯はネタが転がっている。今回は革靴と立ちションのお話をしていきたい。

 最寄駅のタクシーロータリーからちょっとだけ外れたところに、タクシーが止まっていた。車道から歩道側の低木に向けて、そのドライバーが立ちションをしていたのであるが、ときめかない人には申し訳ないが、事実のまま伝えるとドライバーは50代後半の痩せ型のオッサン。立ちションの価値的には、一般的に極めて低めの評価となる。そのため、チラ見だけで素通りしようとしたのだが(素通り以外に、何をするというのだ)、ちょうど通りかかると同時くらいに出し切ったようで、ホースをブンブンと揺らし、しずくを切る動作をしはじめた。その動作をすること自体はごくごく普通なのだが、そのドライバーが普通のそれと違ったのは、そのブンブンと揺らす勢いである。もう、有名ラーメン店の店主が茹であがりの麺の湯切りをするような力強さである。何度も何度もしつこくやっていて、普通の感覚でやる立ちションだったら、1秒でも早く出ていてはいけない部位をしまいたいと思うのだろうが、そうではなく、激しくかつ念入りにしずくを切っていた。思わずこちらも見入ってしまったのであるが、そのドライバーはお構いなしに、というか、しずくを切ることに専念しすぎているのか、こちらの存在に気づいていなかったようである。こちらが通り過ぎてからは、後ろを振り向くかたちで見続けてしまったため、そのタイミングであちらも他人に見られていることに気づいてしまったようで、慌ててチャックを上げた。これ以上見ていると、ヤバイ人認定されてしまうため、見るのをやめてその場を離れることにした。

 それでこの目撃談は終わるはずだったのだが、こちらが横断歩道を渡るタイミングで、再度そのタクシードライバーの立ちション現場あたりを遠目で見てみることにした。すると、そのドライバーはまだ車に乗り込んではいなく、そばにあるタバコ屋の前に設置された灰皿で一服していたのである。たぶん彼のルーティーンなのかもしれない。立ちションしていた人の顔は、最中は下を向いていることが多く確認しづらい。なのでどんな顔だったのか可能な限り確認したいから、こちらは横断歩道を渡るのをやめ、偶然にもそこにあった自動販売機で、飲みたくもない缶コーヒーを1つ買い、「(当初の目的だった)コーヒーを買い終わったから、折り返して戻ってきました^^」というオーラをまとい、再度そのドライバーに接近を試みた。

 タバコを吸う姿はなかなかダンディーで、若い頃は確実にイケメンだったでしょうねって感じであった。会社名は伏せるが、この会社のドライバーは清潔感がある。なお、個人的には立ちションという行為はその人の清潔感を量ることに一切影響しない。そして、なんとなく革靴に目をやってみたのであるが、なんとその革靴が立ちションのときについたであろう飛沫で、わりと豪快に濡れていたのである。タバコ屋に設置された自販機の明かりがちょうど革靴を照らし出し、キラキラとションベンの滴が働く男の足下を輝かせていた。立ちションの跳ね返りだけでなく、あれだけ勢いよくしずくを切れば、そりゃ靴にも付着するのも無理はない。そこで思ったのが、大人が衣類や靴などにションベンを付けていては、社会的にイケナイのである。

 男なら絶対に経験があるだろうが、ションベンのコントロールをミスってズボンに引っかけてしまうことがある。だが、ほとんどの男は幼少期以降にこのような失敗をしない。年を重ねるたび、自身の構造上で必要とされる操縦を会得するものである。それでも、百年に一度の天災が起きてしまうのと同じように、ごくごくたまに、数十年に一度くらいの頻度で、ズボンや服に引っかけ濡らしてしまうことはあるのではなかろうか。今ここで扱いたいのは、チ●コをしまった後に内部でジュワっとやってしまう、いわゆる残尿ではなく、外部から噴射のお話である。ズボンや服でなくとも、小便器に適当な置き場がなかった場合に、しかたなく手で持っていた鞄や紙袋や雨傘が、アクシデント的に便器に接近して、ちょっと引っかけてしまったりする現象、男なら経験したことがあるだろうと思う。体験談からすると、ベルトを外してチャック全開でやったとき、クールビズのワイシャツの裾を目がけてしまったことがあり、どう処理しようか焦ったものである。そのままスラックスにタックインするのも嫌であり、個室でトイレットペーパーに吸い込ましたが、トイレットペーパーが溶けてカスが付着して、なかなか悲惨な思いをした。このように、ズボンや服を濡らしてしまうことは稀なイベントではあるものの、やってしまった場合には、大人として恥ずかしい大失敗と位置づけられるだろう。トイレから出てきた大人の男性が、服の一部を濡らしてしまっていることは、見る者に「もしかして?」と思わせてしまうビジュアルなのであり、絶対に避けたい出来事なのである。もっとも、手を洗うときに水がはねたり、ハンカチを持っていなく手から飛ばした水滴がズボンに付着したという場合がほとんどであろうが、やはり濡れていることに説明がつかない部位であったり、濡れた部分が異様な広範囲であったときには、「恥ずかしい染み」として認定されるだろう。

 一方、ズボンや服以外で、実はうっかり見過ごされがちなのが、靴をションベンで濡らしてしまうパターンである。トイレの場合でも、今回取上げたタクシードライバーのような激しい湯切りをした場合、数滴の透明で黄金の滴がコントロールを失い、靴を目がけて落ちることは高確率であることだと思う。意外と世の男たちは、靴に落ちたションベンに気づいていなく、また多くの男たちが靴にションベンを付着させている。靴は不潔なのである。覚えておきたい生活の知恵と言えよう。そして、このことを踏まえた上で、運良く立ちションが目撃できた場合には、ぜひともその人の靴もなんとかして一目でいいから見てみてほしい。革靴での立ちションだったら、ポタポタと多くの滴を靴に付けちゃっているはずである。スニーカーなどの素材だと残念なことにまったく目立たないのだが、革靴なら案外はっきりと濡れている様子が確認できるはずである。いつ頃だったかは忘れてしまったが、歌舞伎町の駐車場で偶然見かけた立ちションでは、ブラウンの高そうな革靴に飛沫を付けまくっていたリーマンは、その見た目と相反するだらしなさが印象的だった。アスファルト目がけて立ちションしていたのだが、そのアスファルトから飛沫が跳ね返り、大量に革靴にかかっていたのだが、当の本人はまったくそれに気づいていないようであった。立ちション慣れしてそうなワイルドな風貌であり、しょっちゅう立ちションしていれば、飛沫がはねない方向や角度を知ってそうなものであるが、きっと革靴が濡れてるなんて事には気づいていないようなタイプなのであろう。

 トイレあるいはトイレ以外の立ちションにおいて、大人がズボンや服にションベンをうっかりアクシデント的に引っかけてしまうことは、なかなかないのだが、靴は無意識のうちで濡らしがちである。覚えておこう。大切なのでもう一度だけ言うが、ションベン後の男の靴は濡れている。以上。