コンテナ船上のシークレット立ちション

 勤務時間中の排泄管理は、会社がしてくれない。トイレがないため勝手にやっていいのである。今回ためしがき取材班(1人)は、大井コンテナ埠頭で働く男どものシークレットな立ちション情報を得ることに成功したため、記事にすることにした。
 
 大井コンテナ埠頭、ググってみるとここは東京最大のコンテナ埠頭のようである。そこに寄港する船にコンテナを積んだり降ろしたり、それを船に固定したり解除したりするラッシングという仕事があるらしい。職務について詳しいことはよくわからない。東京はコンテナを降ろす作業のほうが多いらしい。積むのは主に空のコンテナのようだが、そんなことはどうでもいい。作業着姿で安全帽をかぶり、男らしい姿で働く「男の仕事場」であることだけは確かである。停泊中の船に乗り込み、コンテナを船に積む間が勤務時間となる彼らであるが、聞くところによると、食事を伴う休憩時間以外、ほぼすべて現場に立っていることになる。船の中のトイレを借りることはできるらしいが、外国船の場合、そもそも言葉が通じない船員に声をかけて許可を得なければいけないため、根本的なハードルが高い。さらにはコンテナ積み込みに関わる人員が、勝手に船内をウロウロするのは保安上よろしくない。コンテナ船は毎隻ごと船の大きさや構造が違ったりして、トイレの場所を知るすべも基本的にはない。よって、このコンテナ船で甲板作業を担う男たちは、基本的にはトイレを借りないらしい。もちろん、腹痛などの緊急時は、まわりの人間に許可を得て業務を中断することもあるようだが、それは高校で例えるなら授業中に保健室に行くような対応なのであり(どんな例えw)、要はションベンの場合は、立ちション一択となる。
 
 その仕事をしている人によると、先輩にあたる人から「ションベンしたくなったら、そのへんでしろ」と指示されたようである。「そのへんでしろ」というワードにときめきを感じてしまった。こんな指示、されてみたいものである。なお、力仕事なため夏場は非常に過酷であり、水分補給は必須となる。だが、夏は飲んだものがほとんど汗になり、ゼロではないが立ちション発生はそうは多くないらしい。そのため、冬のほうが比較的立ちションの確率が高くなるようだが、重要なことは季節ではなく、トイレに自由に行けない職場環境という点である。常に立ちションをせざるを得ない状況が、ここには存在しているのである。これを苦に感じる男は、聞くところによるとほぼいないらしい。インタビューに応じてくれた人によると、「ここで(こんな過酷な場所で?)長く働くことができるようなメンタルを持つ男は、立ちションなんて恥ずかしいと思う人は稀なのでは?」と言っていた。なお、頑なに立ちションはしないという人員もごく稀にいるらしい。唯一の食事時まで、我慢できるのだろうか。謎である。
 
 この会社では、船に乗り込まない人員もいて、その場合は岸壁で待機して業務をこなしている。コンテナ船の停泊に合わせているため、勤務時間も24時間体制となり夜間勤務の人間も多い。夜間は暗いため、立ちションも岸壁と船の間でごくごく普通に行われているらしい。昼間は、やや隠れてやるようであるが、もう日常茶飯事のため、誰も気にしていない。同業種の所属が違う人間も、みんな立ちションするらしい。「1時間に1本は確実に見れる」とのこと。
 
 話を戻して、船内でコンテナを固定する人員の立ちションなのだが、先程の「そのへんでしろ」の「そのへん」はどの位置を指すのかという問題である。答えとしては、海めがけてやってしまえ、というようである。この話を聞いたとき、コンテナ船から海めがけて立ちションした場合、ションベンが海まで届くのか非常に疑問であった。大型船の人間が立ち入れる位置から、ションベンを放ったところで、船の別の下部にションベンが散らばってしまうと思ったからである。だが、コンテナ船はどうやら普通の船とは構造が違い、海めがけて立ちションすれば、ションベンのほとんどが海に落ちていくようである。なお、海以外の、例えばコンテナとコンテナの影などの場所で立ちションすることはないのか、と質問したところ、必ず海をめがけてやる、との返答であった。やはり、汚物は海に落とす、これが彼らのルールのようである。でも、実際はわからない。隠れて変なところでションベンしていても、絶対に誰もわからないようである。
 
 船で固定の作業をする男たちは、その都度、4〜5人いるようであるが、他の男の船から海への立ちションを目撃することはあるかどうか、と聞いてみたが「嫌でもしょっちゅう目に入る」と証言していた。また、うっかり立ちション中にそばを通りかかってしまった場合は、相手の男は気まずそうにするらしい。一応、恥じらいはあるものの、でもトイレがない環境なのでしょうがなくみんなやっている感じがシコい。また、働く男同士で連れションしている場面もたまにあるというのだから、仕事中に行われる行為として、これはかなりのレアケースな立ちションなのではと感じた。なお、大井ふ頭は立ちションはまったく問題なくできるのだが(オフィシャル的にはダメなのだが、仕方ないのだろう。ハァハァ。なんでも、船と事務所の移動は車が必要な距離だと言う)、その一方、千葉のある港は立ちションがバレると会社に警告がくる、という話もうかがった。(千葉は、規模が小さいから、歩いて事務所に戻れるようであり、「立ちションするな」と徹底されているようだ)
 
 立ちションが黙認されている仕事ってエロいな、と記事の結論を考えているときにふと思った。果たしてこれは「立ちション」と言えるのだろうか?黙認されているし、先輩的ポジションの男から、業務の一貫として「そのへんでしろ」と指示がなされている。裏を返せば、ションベンごときで現場を離れるな、との意味と解釈できよう。立ちションの定義は、トイレではない場所で男が立って放尿することであり、その定義に照らすと、もちろん彼らは立ちションをしているので間違いないが、その言葉の背後にほんのりと存在する「(立ちション≒)いけないこと」をしている感覚がない。だって、その空間内では黙認されているのだから。なので、このコンテナ船で働く、作業着と安全帽をかぶった男らしい男たちが、海をめがけてションベンしているのは、彼らにとってのスタンダードな解決方法であり、お仕事の一貫なのである。

取材時に提供いただいた写真。右側のところ(黄色の矢印)がコンテナ船の歩けるスペースとなる通路であり、そこから立ちションすると海にションベンが落ちるのである。