ションベンは便所という空間(所:ところ)にある、便器という器具(器:うつわ)に放たれる。今ではトイレという外来語で言われることがほとんどだが、トイレという言葉は実に曖昧だと思う。日本語だと「トイレに行く」とも言えるし、「トイレに出す」とも言える。トイレという語彙は、空間である便所と、器具である便器の両方を示すことができるのだろう。それに加え、「トイレしたい」や「トイレする」なんてことも言える。外来語は強い。便所したいとか、便器するとか、便器したいとか、もうどちらの肉便器さん?
ただ、トイレという空間を一般家庭の事情に焦点をあてて考えると、空間と器具がイコールとなれるわけが少し見えてくる。豪邸に住んでいれば少し話は違うかもしれないが、一般的にトイレという空間には便器しかない。ドアを開け、トイレという空間にたどり着くと、白い陶器に水が溜まる物体が真ん中にあり、「そこ」(空間)で排泄する、あるいは「それ」(器具)で排泄するのである。だから、トイレにさえたどり着けることができたのであれば、排泄をする場所は間違えるはずがないのである。
一般家庭以外の外の場合では、トイレとしての空間が広いことがある。その空間には、むき出しにされた数台の小便器や、個室がいくつもあったりする。一般家庭では、その個室そのものがトイレという狭い範囲だったのに対し、例えば駅のトイレや公衆便所では、個室だけがトイレというようにはならない。男の場合、個室だけが許可された排泄空間ではないことから、事情はさらに複雑なのである。一列にならぶ小便器の前に立ってションベンを出す。要するに、男の場合、個室でなくとも便器の前でなら放尿してもいい。これが時に厄介なことを意味すると最近気がついてしまった。
ようやく本題に入っていくわけであるが、みなさんは間違えてションベンしたことがあるだろうか?「間違えてションベンする」なんて意味不明な表現であるかもしれないが、つまりは場所を間違えてションベンをしてしまった経験についてである。先にも述べたように、一般家庭の場合はトイレという空間には便器しかない。だから、ションベンを放つ場所は間違いようがないのである。これがアパートやホテルのトイレ付きユニットバスだったら、間違えることはないにしても、間違えるチャンスはほんの少しあるかもしれない。ん?チャンス?
緊急事態宣言が明け、いろいろな状況が落ち着いてきたつい先日、お一人様カラオケに出向いた。雑居ビルの4〜8階を占めるそのカラオケ店は、各階に個室トイレが男女それぞれ1個だけある構造だった。雑居ビルの狭さゆえ、男子トイレには小便器はなく、洋式が一台あるのみ。家ではない外の男子トイレには、必ず小便器があるという固定概念から、無意識にまずは小便器を探していた。
すると小便器はないものの、限りなく小便器に近い形をした手洗いシンクが、ふと目に入った。しかもちょうど腰の位置というか、普段使う小便器と同じようないい高さに、小型の手洗いシンクが設置されていたのである。限られた狭い空間に設置するには最適で考えられた形状をしたこのシンクなのだが、小便器と間違われる可能性があるばかりか、カラオケ店という場所とその客層からも、洋式トイレが汚れがちで汚トイレってこともあり、たぶん便器を避けてわざとこの手洗いシンクにションベンする男もいるだろうな、なんて考えながら手を洗った。(手を洗うだけでもエロい気持ちになった。)このカラオケ店のような場合では、うっかり間違えて手洗いシンクにションベンしちゃったなんてことは起こりえない反面、わざとこれに放尿される確率は比較的高いと思う。それは個室だから、というのが理由であり、シンクにションベンしちゃってることが基本的には他人からバレない。洋式の便座のフタが閉まっていて、それを触りたくない人は、普通にこのシンクを小便器代わりに使う選択をするはずである。なお、テキストブログとの建前だし、しかもその手洗いシンクに置いてあるハンドソープには店名がしっかりと書いてあったため、写真は掲出できないことをご理解いただきたい。
手洗いシンクが小便器と似ている問題に関しては、表参道の公衆トイレも有名なのではないかと思う。おしゃれなデザインを追求しすぎた結果なのかどうかは分からないが、そこにも、どう考えても小便器にしか見えない手洗い場がある。水を出すボタンが、古い手動の小便器とほぼ同じで、プシュッと1度押すと水がしばらく出てくる仕組みであるのもおもしろい。しかも、このトイレが特に紛らわしいのは、ごく普通の大型の手洗いシンクと鏡が、小便器と似たシンクとは別にきちんと用意されているのである。つまり、このトイレという空間には、「手洗いシンク・鏡:1器」「小便器にそっくりな手洗いシンク:2器」「ホンモノの小便器:数器」「大便器:数器」が設置されている。先ほどのカラオケ店と違い、これはうっかり間違えてションベンをしてしまうケースが起こり得る。
男の場合、個室で囲まれた場所のみが排泄エリアではない。すなわち、男の場合、個室か否かが、放尿可能か否かの判断基準にはならない。だから、普通の手洗いシンクとは別に、小便器らしき物体がホンモノの小便器よりも先に目に入ったのならば、もうそこで間違えてションベンする可能性は十分にあるはずなのだ。実際に数回ここへ訪れたことがあるが、時間帯によっては明らかにその手洗いシンクはションベン臭い。また、コロナ禍以前には多くの外国人が訪れるエリアでもあったせいか、「手洗い専用・Sink」と張り紙されてしまっている。異国の便器って、見慣れない形もあるだろうから、これは確実にこの手洗いシンクでションベンしちゃう男が続出した証拠なのであろう。手洗い場であるこれを、小便器だと信じ当たり前に、かつ堂々とションベンを放ってる男がいたのかと思うと、やっぱりそれで手を洗いながらものすごくエロい気持ちになった。ションベン放つ場所をうっかり間違えるなんてこと、普通はないので。