4絞りまでは染み出ない

 「パンツの中で、ちょっとずつ出しちゃえば?ラクになるかもよ」

 このセリフを読んだとき、読者は脳内において誰の声で再生されただろうか。高校生の時、クラスの友だちが別の友だちに言い放ったセリフがこれである。授業中にトイレに行きたくなり、地学の怖い先生に言うかどうかを迷っているヤツに対して、冗談を交えたこの発言だ。その当時の声は、はっきりと脳内で覚えていて、書きながらその声が再生された。エロいと思った記憶は、いつも鮮明である。

 ちょっとだけションベンをパンツの中で出して、それが乾くまで少しだけ待って、ある程度乾いたらもう一度、ちょっと出す。これを何度か繰り返せば、膀胱からションベンも減るのだから、我慢もずいぶんラクになるだろう。

 ・・・ラクに?なるわけがない?

 授業中にトイレに行かせてもらおうかどうかを考えているような状況において、ちょびっとだけションベンを出してみたものなら、止まらなくなって大惨事になるだろう。最初の1滴を出したその段階で、それまで自制していた排泄欲は瞬時に溢れ出し、気持ちよくてしょうがなくなり、少なくとも膀胱に溜まった半分くらいの量が、止めどなく出てしまうはずである。結局、その友だちは、素直に先生に申し出てトイレに行ってしまった。地学の先生も、おしっこがしたい高校生には優しかった。

 ションベンを我慢していた人が、無事にトイレに行けることほど安堵できる出来事はないだろうと、一般的にはそう考えるのが普通であると知っている反面、イレギュラーな放尿珍事件が発生しなかったことに、コッソリとがっかりしてしまうのは、このブログの読者にとってはあるあるネタだと思う。そういうわけで今回は、この“パンツの中でちょっとずつ出しちゃえばラクになるかもよ説”の真相について、体験記を交えてシェアしていきたい。

 結論から言うと、パンツの中でちょっとずつ出しちゃえばラクに・・・なる。大事なことなので、もう一度書こう。ションベンはパンツの中でちょっとずつ出しちゃえば、実はラクに、“なりまぁぁーす!!”と断言したい。

 しかしながら、体験からすれば、それは歩いているときにこれを実行した場合に限られた話しなのではなかろうか、という結論が正しい。立ち止まっているときや、座っているときでは、我慢していたものをちょっとだけでも出してしまうと、パンツあるいはズボンにションベンの染みを作る程度で済むような軽微な放出とはならず、ダラダラと垂れ落ちるほどの量まで出てしまう可能性は高く、床に水たまりを作るお漏らし状態になってしまうから危険だ。だが、歩いているときに限っては、実に不思議なことに、そんなお漏らしにはならないことが実体験から分かった。このように、ちょっとだけ出すことができれば、我慢をコントロールする時間を少しは稼ぐことはできるはずである。そして、ちょっとだけでも我慢の時間が伸びれば、公衆トイレにたどり着くことだってできるかもしれないし、もしくは迷惑が一切かからないような、立ちションのベストスポットにまでたどり着き、難を逃れることができるだろう。

 この検証は、コロナ禍でテレワークが当たり前だった少し前のあの頃、運動不足に悩まされ、深夜帯にウォーキングをするようになった時に行った。当時は、マスクを外してジョギングをしている人がいようものなら、すれ違いざまにこちらは息を止めては、伝染らないように、なんて思っていたぐらいにコロナが未知のウイルスと感じていた時期だった。ウォーキングのコースには、当然いくつか公園のトイレはあったし、コンビニもあった。深夜帯なので、場所にさえ気をつければ、立ちションだって可能だった。しかし、いわゆるコロナ禍で、それまで当たり前にできていた“楽しいこと”のほぼ全てに、何かしらの制限がかけられていた時期だったため、単なるウォーキングですらエンジョイできる何か特別なことをしたいとは、常々思っていた。とりあえず、ワイヤレスイヤホンなんかを購入してみて、歩きながら音楽を聴いてみたりもした。

 思い返せば、コロナ禍以前は1人カラオケ、いわゆるヒトカラにハマっていた時期があった。ビッグエコーというチェーン店には、本当によく通った。もう3~4年は行っていないが、ビッグエコーのデンモク(歌を選ぶタッチパネル式のリモコン)は、パスモかスイカを登録しておくと、入室時にデンモクにそれをタッチするだけでログインできる機能があった。今はどうなんだろう。ピッとタッチして、一覧として保存されたいつも歌う同じ曲を、しかも都合のいいキーまで保存してくれる状態なのだから、すぐに歌い始めることができるあの感覚は、遊び慣れてる自分を演出できて非常に気持ちが良よかった。歌は下手くそなのに、有線のマイマイクすら持っていたくらいのハマりようである。でも今思えば、マイマイクは若干の自身の潔癖症なところがあったためなのかもしれない。他にも、ビッグエコーはマルイのエポスカードを受付で提示すれば、かなりの割引があったことも懐かしい。そして、ドリンクバーで飲み物を飲みまくり、終電後まで歌い、30分かけて一駅歩いて帰宅していた。もちろん駅周辺では、終電後に立ちションなんかをしている悪い大人を探し、そしてそれを見つけては、偶然を装って連れ立ちションをしてみたりと、カラオケ後のそんな散歩の時間は、思い起こせば楽しいことでいっぱいだった。立ちションリーマンは、終電後に生息してる説、これはかなり有力情報であるから覚えておいてほしい。

 コロナ禍では、そんな一人遊びもできなくなった。だから、せめて運動不足の解消にと始めたウォーキングでは、出発前に水分補給をして、歩きながらも常にペットボトルのお茶を飲んでいた。そうすると、ある程度ウォーキングを終えて、帰路につくタイミングでは、いつも絶妙の尿意に襲われていた。別に我慢しながらウォーキングしたかったわけでは決してなく、なんとなく運動しながら水分を補給するのは、新陳代謝がよくなるような気がしていたからにすぎない。ある日、普段使いのカーキのチノパンでウォーキングをしたことがあった。少し肌寒い日だったからか、いつものハーパンではなく、その日は確か、運動してる感が全くないような普段着で歩き始めた。そこで、その日はちょっとお茶を飲みすぎたのか、あるいは肌寒かったせいなのか、ウォーキングの帰路の途中、家につくまで我慢するのは確実に無理なほどの強い尿意に襲われてしまった。その時、ふと、

 「パンツの中で、ちょっとずつ出しちゃえば?ラクになるかもよ」

この台詞が頭をよぎった。どうせ夜で人通りも少ないし、ちょっとずつ出したことなんてなかったから、どうなるか試してみたくて、ワクワク・ドキドキしてきてしまった。万が一失敗して、半ばお漏らし状態になったとしても、あとは家に帰るだけだし、まったく問題もなかったのである。

 歩きながら、最初の1滴は力んで放出してみた。歩きながらだと、その人の体質にもよるとは思うが、自分の場合では不思議と、1滴というか1絞りで必ず止まってしまう。率直に言えば、非常にションベンは出しづらい。かなりの尿意があったのにも関わらず、本当に意識せずとも、「ちょっとずつ出す」ことしかできなかった。しかも、その時に分かったことは、2枚の布、すなわちパンツとチノパンの中で1絞り程度のションベンを出したとしても、チノパンの外側にまで染み出ることはなかった。そして、一度出すと、尿意は引っ込んだ。完全に一旦は引っ込んだ。そして、また5~10分程度歩くことができる。そして、またもう1絞り出してみても、やっぱりチノパンの外には染み出ない。本当に、パンツの中で、ちょっとずつ出してしまえるのである。2回分の、やや主観的な「ちょっとの量」を出してしまえば、本当に膀胱がラクになっていくような錯覚さえあった。脳が、通常どおりのトイレでの放尿を完了させたと勘違いしたのかもしれない。

 しかし、歩きながら3回めの1絞りをジュワっと出したときだけ、1回めと2回めとは様子が違い、ションベンを出せている感じが、たまらなく気持ちいいと思ってしまい、もっともっと出したくてたまらなくなり、1絞りで止めるのが非常に難しくなってしまい、「あぁ」なんて声をあげながら立て続けに4回めの1絞りがジュワっとコントロールできずに出てきてしまった。パンツの中はと言えば、ションベンでかなりしっとりと濡らしてしまったのだが、一方でこの程度の量くらいでは不思議なことに、やはりチノパンの外にまでは、まだ染み出ていなかった。

 このようにして4絞り分のションベンを、間隔を開けて出し続けてみた。歩くたびに、自分の股間というか、パンツの中だけが濡れていることが明らかに分かる感じは、ひんやりしてなんだか気持ちがよかった。もし、ここで5回めの放出を1絞りでもジュワっとやってしまったら、もう布の吸水は限界に達し、外観からすれば、ションベンが間に合わなかった大人の股間になってしまっていただろう。なので、個人的な感覚では、履いているパンツやズボンの生地にも依るものの、4絞りまでがおすすめである。と言うか、一度出したションベンを止める場合に使われるチ●コの筋力は、4回程度で疲れ切ってしまうのであろう。このションベンを止める筋肉の筋トレは、はたしてできるのだろうか気になるところである。

 家に着くまでに存在する最後の信号待ちで立ち止まったとき、尿意は限界に達してしまった。その時は、更にもう1滴だけ出すことなど不可能なことは体感的にも明らかで、全力で我慢するしかなかった。歩きながらだと、全部一気に放出しにくいのとは違い、立ち止まった時にションベンを出してしまったら、普通に一気に漏れてしまいそうだと感じた。そして帰宅後、検証のためにそのまま風呂場に直行して、立ち止まった状態で実験的に再度1絞りだけ出せるかどうかを試してみた。案の定、無理であった。1絞りで止めようとしても、止めるために力んだパワーで、またジュワっと大量のションベンが出てしまい、止めるために力めば力むほど、何度もジュッ、ジュッと、普通にお漏らし状態の放尿を繰り返してしまった。

 最初は濡れてもさほど目立たない黒のズボンなどで、ウォーキングのときにでも練習がてら試してみてもらいたい。ウォーキングだけでなく、駅から家までの帰宅途中に、どうしても我慢できないときのライフハックとしても、おすすめだ。