消滅TSスポット:本石町K園

 自分の行動範囲において、運が良ければ立ちションが見れるかもしれない場所を、この業界(見る側の視点)では立ちションスポットと呼ぶ。当ブログ的に流行らせたいそれの隠語は「TSスポット」、読み方はティーエス・スポット。

 今回紹介するのは、東京都C央区に存在した消滅TSスポットである。ここは、日本橋川に高架として並行にかかる首都高環状線に沿った場所に位置し、川が見える都心のオアシス的な役割を担っていた公園であったように想像する。対面には日本銀行本店がそびえ立っており、どう考えても子供を遊ばせるような公園とも言えず、そのためか遊具などは一切ない。あるのは、数個のベンチと喫煙コーナーとして花壇で四隅を囲われ整備された喫煙コーナーのみである。ただ、面積はそこそこ広く、狭いわけではない。そんな公園は、近辺で働くスーツリーマンたちの貴重な喫煙スポットとしての一面を持っていた。いや、それが一面なのではなく、むしろ公園じゃなくて、単なる公園という名の喫煙所といったほうが正しいのかもしれなかった。だから閉鎖され、今はコインパークに変貌してしまった。

 この公園を訪れたのは、2020年の真冬だったと思う。この公園の近くにあったコレド室町という商業施設の近くのビルに野暮用で訪れ、その帰りにぶらぶらと散歩している時に、通り過ぎたことがきっかけである。なぜ「あやしい(≒TSがありそう)」と思ったのかというと、立派に公園の名が掲げられ表札が立っているのにも関わらず、ずばり公衆トイレがないのである。そして、公園の中心部には先ほども述べたとおり、花壇で四方を囲まれた、外の歩道からは見えにくい隔離された喫煙スペースと思われる空間だけが残っている。更には、その喫煙スペースの先には、日本橋川との柵があり、時間帯によっては死角が多く、公園ならトイレがあるだろうと来てしまった人々の立ちションがあるのでは?と勘ぐったのである。

 というわけで公園を発見したその週の金曜日、その公園に行ってみた。結論から述べると、3人の30~40代スーツ姿の立ちションを見ることができ、またスーツ以外にも軽バンを運転していた作業着姿の40代の立ちションを1本見ることができたので、計4本。立ちションの目撃を数える単位は「本」でいきたい。うち、スーツ男の3人は、2人の連れションが1、そして単独放尿が1との内訳だ。

 スーツリーマンの立ちションをここで見たとき、興奮したのと同時に、疑問に感じたことが一つあった。こんなオフィス街に位置する公園にタバコを飲むためだけにやってくのだから、周辺の会社にお勤めしているリーマンなのであろう。ならば、職場近くのこんな喫煙スポットでついでにションベンなどするだろうか?同僚に見られる可能性だってあるだろうし…、もしくは取引先にやってきた帰り?だとしたら、なおさら立ちションはしないだろう。取引先に立ちションがバレたら、いい印象など持たれやしない。商談なんてパーだ。だが、立ちションが見られたのは、ともに夜22時過ぎのことであり、しかも連れションが見られたのは23時にほど近い時間帯だったと記憶している。だから、きっと残業でもして、残業仲間とともに地下鉄の駅に行く足取りで、タバコで一服となったのだろう。残業モードでさっさと職場から離脱してきて、忙しさのあまりトイレに寄らず、ふとタバコで立ち止まった際に、ツンと膀胱を刺す尿意を感じ、「こんな時間で(俺らの他には)絶対に誰もいないし、立ちションしてもいいか」となったに違いない。連れションの発生は、同僚同士と思われるタバコをくわえた一人が、まずは先に無言で柵の方へ行き遠慮なく放尿を開始、その様子を見たもう一人が同じくタバコをくわえながら、チャックに手を当て近づき連れションとなっていた。少し遠い位置からの目撃だったため、二人の間でどんなションベントークが行われたかは定かではないのが、実に悔しい。2人の連れションは、ほぼ同時に終わっていたのも興味深い。たぶん、一人目のションベンのほうが長くて、二人目はさほどの尿意ではないものの、せっかく発生したイベントなので、とりあえず連れションをキめたのだろう。男にとって、立ちションという突然の非日常イベントは、少年の頃に戻った気持ちにさせる。だから、仲間のうちの一人が立ちションを始めたら、「俺も」となったり、もしくはその人だけに恥をかかせるわけにはいかず、なおかつ若干の尿意もあるし、後ほどどうせいつかはトイレで放尿することになるのであれば、今この瞬間で連れションをするのも悪くない、という男の思考回路である。

 同じ年(2020年)の夏頃、お盆前の深夜にも、もう一度この公園を訪れたことがある。その時は、前回よりも少し早い時間帯の観察であったためか、缶ビール片手の5人1グループのスーツリーマンが公園立ち飲みをしていた。もう、その光景だけで「たちしょん確定」なのだが、これもなかなか興味深かった。夏のほうが、公園の人口密度が高くなるようで、缶ビール片手のグループ以外にも、タバコ休憩をしているソロのリーマンがちらほらいたため、缶ビールのリーマンが尿意を感じた時に、なんと立ちションを躊躇していたのである。明らかにションベン我慢中といった感じで足を動かし、堂々とチ●コのあたりを揉んだりして、別のタバコ客が公園から立ち去るのを待っているようであった。だが、夏のほうがタバコ客が多いためか、次から次へと数人が入れ代わり立ち代わり公園にやってくる。そのため、「もう限界」と言わんばかりに同僚には「コンビニでトイレ借りてくる。ついでになんか買ってきますよ」みたいなことを大声で言っていた。こんな状況下で、立ちションを楽しむのもまたチャラい成人男性である。同僚らは、その男をコンビニに行かせず、そのうちの2人が腕を引き、半ば強引に公園の隅に連れて行き、2人が背を向けて隠してあげるかたちで、同僚の背中で立ちションさせていた。当の本人も、嫌がってる様子ではなく、むしろありがたがっている雰囲気だった。公園を出て横断歩道を渡ってまでしてコンビニでトイレを借りるより、仲間の合意さえ得られれば、周りに赤の他人がいようとも、この公園内で立ちションしてしまったほうがラクなのである。

 立ちションが発生するとき、仲間の合意が取れるか否かが、実は大きなポイントになってくる。もちろん、仲間は「さすがに立ちションはまずいだろ」などと言えば、立ちションは絶対に発生しない。この光景は、今でも思い出すたびにウキウキする。リーマンの背中で隠してもらいながら、「ほら、これで立ちションできるだろ。やれよ。」と言われながら立ちションするなんて、なんというエロさ。ションベンのジョボジョボ音、嫌でも聞こえますよね、っていう。

 現在、この公園はコインパーキングに変わってしまった。タバコの吸い殻すら落ちていないことから、もうここでタバコを吸うリーマンはいないのであろう。とすると、立ちションも基本的にはアクシデント的な放尿を除けば、皆無であろう。先日、ふと久しぶりに訪れたところ、公園がなくなっていて、絶望感に包まれてしまった。ここでタバコを吸っていた人たちは、一体どこへ消えていってしまったのか。

コインパークになりガードレールが設置されたが、公園時代には奥の白い柵のみであった。立ちションは、その白い柵の周辺に生える雑草をめがけて行われていた。(2022年12月撮影)
Google Mapのストリートビューより画面キャプチャした2020年3月の様子。真ん中が花壇で四方を包まれた喫煙コーナー。基本的には死角がない公園なのだが、花壇と奥の白い柵の間や右側の物置など、人の少ないタイミングがあれば、なんとか立ちションするに差し支えないスポットが存在していた。