春は好きだった

 長らくブログを更新していなかった。(もとから更新頻度なんて高くないのだが)ここの存在を忘れてしまうほど、私生活でトラブルに見舞われ、参っていた。立ちションのこととは関係のない、平凡だった男同士の同棲生活のなか、大きな金銭トラブルにもつながる課題における全ての責任を押し付けられ、信頼していた人の目つきが変わっていった。そんな状態にあっても、まだそのせめて半年は、周りに気づかれないよう気丈に振る舞っていたのだが、ついに1月末に限度がきたようでメンタルを病んだ。人生で初めて、心療内科にも通って、休暇をもらった。今の街に住んで、もう5年目になる。賃貸の契約更新を2回したのだから、たぶんそうだろう。いつ越してきたかは、もう覚えていないぐらいなのだが、今ひとつこの街に馴染めない気持ちがずっとあった。以前住んでいた川崎市は、徒歩圏内に多摩川もあったし、地元からも遠くなく、昔からの友だちとも付き合いやすかった。

 心療内科は最寄りの駅前にあって、そこの先生は話をよく聞いてくれる人だった。仕事は体調不良として休んだから、すぐ予約ができるところは、数軒電話した中、ここしかなかった。電話口のスタッフの方は、「今日の診察は予約がいっぱいでできないが、今その状況なら、明日の仕事も今すぐ休みの連絡を入れて、明日クリニックに来てください」と的確なアドバイスをもらえた。そう、それくらいの判断すらできないほど、そのときは弱っていた。あれから気づけば、もう4月になった。心療内科には未だ定期的に通っていて、もう5~6回くらいは通ってると思う。近所の調剤薬局の人も、毎回同じ人で優しい。「安定してきました?」「お薬で眠気が辛かったりしませんか?」「漢方を食前に飲んで気持ち悪くならない?食後でもそんなに変わらないし、どっちでもいいかもよ」これは優しさではなく、職務として必要最低限の確認事項なことなのは分かっているが、今の私の体調に対して気にかけてくれている感じは、素直にうれしい。メンタルを病んでから、些細なことに大きな不安を抱くようになってしまった。だから最近は、買い物も近くの小さなスーパーでささっと済ませている。男の立ちションの後ろ姿だけで興奮することからして、すでに脳はバグっていたのに、今では遠出することすら怖くなったのだから、エラーも最大値。近所を歩くことも多くなったせいか、ようやく病気をきっかけにこの街に馴染んできたような気持ちにもなった。

 春は桜の季節。花見で有名な都内の大きな公園では、陽気な雰囲気でビールを飲みまくった男たちが、男ですら30分待ちというアトラクションの行列に我慢できず、声を掛け合いながらドロップアウトして立ちションする様子が見られることで有名である。「やばくね?進まなくね?裏で立ちションしねえ?」って、最高のセリフが聞ける。そして、そういう男たちは、順応性が高く、2回目のトイレは並ばず、さっき立ちションができた場所へ当たり前のように直行する。その界隈では、3月末あたりからは、これが必ずホットな話題となる。

 自分も、桜の花も見たかったし、立ちションも見たかった。立ちションの跡だけでもいいから見たかったし、とにかく春らしいこの行事には、何かしらのかたちで、1秒でもいいから関わりたかった。でも、今は安定剤を飲むことで一般的と言える生活レベルの境界線をようやく渡り歩いているような状態である。だから、今年は近所の桜の花を散歩しながら見ることしかできなかった。大人はアルコールかタバコをたしなむものらしい。自分はアルコールもタバコも呑まない。だから、それの代わりに安定剤くらい安全なものだろうと思った。後世に伝えたい。大人はアルコールかタバコか安定剤を飲むんだよ、と。

 薬のことは詳しくないが、安定剤は脳を薬物の作用で強制的にリラックスさせるものなのだと思う。自分の場合、きっかけとなったトラブルのことが断片的に突如として脳裏をよぎり、それがコントロールできなくなり、全く関係のないことに不安を抱いたり、いつもならできていたことが、急に不安でしょうがなくなったりする症状に見舞われたが、安定剤の投薬で8割型、落ち着くことができた。リラックスの対義語が緊張なら、緊張は興奮とは違う。だから興奮とリラックスは正反対の関係ではないかもしれない。でも、興奮しているときは、どちらかといえばリラックスしてはいないと思うし、心拍数だって上がっているはずである。

 経験談からすると、脳が落ち着いているときは興奮しない。だから、立ちションウォッチングに出かけることもできなくなってしまった。正確に状況を述べるのなら、今は2種類の安定剤を飲んでいる。1つ目は、毎日定時に飲むタイプ。これは、以前の正常な状態を思い出す目的で、日々の不安を感じにくくするらしい。2つ目は、やばくなったら飲むタイプ。いわゆるメンヘラ界隈で「リーゼをキめた」なんて表現される頓服タイプ。で、自分の場合は、この毎日飲むタイプがあるために、言ってしまえば1月末からはずっと私の脳は薬によって強制的なリラックス状態にされている。もちろん、そのお陰でかなり救われた。「気持ちが興奮に傾くカフェインは控えましょう」と医者から言われ、大好きだった利尿作用もあるコーヒーも完全に断ったし、2リットルのペットボトルの緑茶も買うのを止めて、パックの水出し麦茶を手作りした。そんな状況だから、「よし金曜の夜は天気もいいし、いっちょ立ちションの狩りに繁華街の路地へ出かけるか!(悟空の声で)」という思考にはなりにくいのである。

 ここ半年を振り返ってみれば、常に緊張状態にあった。職場では、慣れた業務とはいえ、それなりの緊張感を持って挑んでいたし、帰宅すれば共依存としか説明がつかないトラブルの相手となる同居人の顔色を伺う生活で、時にひどい言葉も浴びせられた。唯一の娯楽であった繁華街への立ちションウォッチングにも、こんな状況だから、ここ半年はなかなか出られていなかった。それが実は、大きなストレスだったのかもしれない。読者のみなさんも、くれぐれもストレスには気をつけてもらいたく、また大好きな立ちションを見に行く力がみなぎって来なくなったら、それはまさにメンタル不調を示すバロメーターである、と感じてほしい。

 最後に、ためしがきとしてインスタ始めました。フォローはしづらいとは思いますが、どうぞよろしく。