河原に設置してある仮設トイレに、簡易壁式小便器があるという。今いるところからは新幹線の距離だったため、すぐに調査へ向かうことができず悔しく感じたのだが、ふと、河原の仮設トイレって、使わない男もいるのではないかと思考が逸れていってしまった。
そこで思い出したのが、消滅した和泉多摩川の河原にあったバーベキュースポットの有名立ちションスポットのことである。2008年頃が最後の確認だったと思うが、その後は2012年より正式にこの一帯でのバーベキューは禁止されてしまい、現在ここにはバーベキュー文化は存在しない。
とにかく、お花見シーズンが終わり、なんとなくぽかぽか陽気となる季節には、ものすごい数の人間がここでバーベキューを楽しんでいたと記憶する。この場所を知ったのは、ミクシーの「立ちションが好き!For Gay」のコミュニティーで知り合ったマイミクさんからの情報だった。なお、そのコミュの初代管理人は、“ぐんがん”という謎のネーミングセンスで自身を名のりミクシーをやっていた、このためしがき氏であった。常に最終ログイン5分以内で、「いつ寝てるの?」などと言われていたのが妙に懐かしい。その後、SNS疲れだったか、はたまた裏アカがリアルの人脈にバレたかでミクシーを退会するときに、コミュの管理権を誰かに引き渡した記憶がある。この多摩川のバーベキュースポットの話は、当時そこそこ有名な立ちションスポットであるとスレでは話題になっていたと思う。
はじめて訪れたのは2004年のゴールデンウィークの土曜、正午過ぎだっただろうか。もちろん河川敷には仮設トイレが数カ所設置されているのだが、確かにほとんどの男たちは、河川に生い茂った草と木で囲まれた砂利道に集まり立ちションをしていた。その立ちションスポットは、バーベキューをしている人が特に密集した高架下から、遠すぎないちょうどいい距離の位置にあり、遠目では立ちションが行われてるなんてことは分からず、といった感じであった。橋から仮設トイレと同方向に存在したそのスポットなのだが、仮設トイレの約半分の距離で、脇道にそれるだけでたどり着けてしまうものだから、ほとんどの男どもがそこに吸い込まれていた。河川直前の、生い茂った草、そして木も多く生えていて、普段なら散歩として歩ける砂利道なのだが、バーベキューの時期はその砂利道の周囲にある背の高さまで生えた草や木で、ある程度隠れることができ、完全に男どものトイレと化していた。バーベキューというイベントから、連れション率が爆発的に高かったのも思い出深い。深酒してゲロ吐いてる男もいたり、特に草木に隠れようとせず、砂利道に入った瞬間から、お構いなしに立ちションをはじめる男もいたりと、やり方は十人十色であった。
仮設トイレは混んでいたので、結果的に仮設トイレを使いたい人に譲ってあげられていたという意味では、立ちションスポットで済ませる男たちの存在も実は必要なのではなかろうか。たぶん、そのスポットがなければ、トイレの行列は大変なことになってしまうことだろう。とはいえ河川敷なので、このスポットが存在しなくても、他に隠れる場所などいくらでもあるのだが、本当にこのスポットは位置的にすごく都合のいいところにあり、河原という広いエリアにもかかわらず、一箇所にあつまるスポットが爆誕していたとの印象である。広いエリアだと普通、おのおのが好き勝手にマイスポットを設けるため、一箇所に人が集まることはないのである。
このバーベキュースポットは、認可された場所でなく、いわゆる野良スポットだったため、ゴミや騒音の問題から、先述のとおり禁止されてしまった。立ちションスポットができあがるくらいなので、どれだけ酷かったかは言うまでもない。正確な時間軸は分からないが、その後、東京都側の二子玉川付近に有料バーベキュースポットが整備されたり、神奈川県側の丸子橋にもそのような場所が整備されたりと、野良スポット以外の正規バーベキュースポットができたことにより、今では和泉多摩川は、草木もきれいに刈られ、かつてここにバーベキュー(立ちション)スポットがあった記憶を忘れさせるほどにひらけた空間に生まれ変わり、グラウンドという名称が付けられているようである。近いうちに感染症による社会情勢が落ち着いたら、再訪してみたい。
(2022年3月再訪により写真を追加)